クレイン・トータス新聞
トータス新聞1面記事
福祉総合相談センターへ向けて
2021-05-01
平成19年に市原市より地域包括支援センター(包括)の委託を受けてから早13年が経過しました。職員も若い人が増え(?)エネルギッシュな支援が可能となっています。
これもひとえに地域の皆様に支えられ、一緒に協力しながら進んでくださったおかげだと思っております。
そして本年度からは新たな動きも加わります。それは厚生労働省で掲げている「地域共生社会」の実現に向けての改革が私たち市原市でも行われるからです。
わが国では、かつて地域の相互扶助や家族同士の助け合い等、地域・家庭・職場といった人々の生活の様々な場面において、支え合いの機能が存在しました。
そして社会保障制度で、高齢者、障がい者、子どもなどの対象者ごと・生活に必要な機能ごとに、公的支援制度の整備と公的支援の充実が図られてきました。それにより、相談する先が分かっている課題や、自ら相談する力がある人たちの課題は解決に向けて動くことができるようになりました。
しかし、高齢化や人口減少が進み、地域・家庭・職場という人々の生活領域における支え合いの基盤が弱まってきたため、社会的孤立してしまった人・制度が適用される対象者にきわめて近い状態でありながら、対象外となってしまう人・複雑な課題を抱えてしまった人等は、どこに相談すればよいのか分からなくなり、対応方法も分からず、課題の解決に向けて動くことが困難な状況があります。そのために厚生労働省により掲げられたのが「地域共生社会」です。
例えば「8050問題」という言葉をご存じでしょうか。80代の親が50代の子どもの生活を支えるという問題です。本来ならば働き盛りである50代の子どもが、何らかの理由で長年ひきこもってしまい、80代の親の年金等で自分と子どもの生活を支えている状況です。この問題には単に「ひきこもり」という問題だけでなく、「経済的」な問題、「80代の親の介護」やその後の「50代の子どもの今後の生活」の問題等が潜んでいます。つまりこの家庭に必要な社会保障制度は「就労支援制度」だけでなく、「介護保険制度」、もしかしたら「就労する」という問題以前に、他の問題を抱えてしまっている…たとえば精神的な病気を患っている・障害を抱えている等々…かもしれません。この「8050問題」は複合的な課題を抱えている世帯の一つのケースです。そしてもちろん、それ以外にもさまざまな形で複合的な課題を抱えている世帯が多々あります。
これらの複合的な課題を解決に向けて動いていくためには、それぞれの制度だけで対応するのは不可能です。例えば「8050問題」であれば、親の介護だけを取り出し、親が介護保険制度を利用していけば解決するでしょうか?親が介護保険制度を利用するには、親の年金から利用料を出していかなければなりません。しかし子どもの生活費まで負担している状態で、介護保険サービス費用を支払うことができるでしょうか?となると、子どもが親から経済的自立をしていく必要があるかもしれません。このように、色々な分野(子ども・障がい・介護等)で制度は整っておりますが、それらが単独で機能しようとしても、他の問題が足を引っ張ってしまい、うまく回りません。それぞれの制度がしっかりタッグを組んで多面的に支援をしていかないと、解決に向けて動くことができないのです。
最近、包括トータスでも、8050問題にかかわることがありました。前号のにゃんにゃん通信で紹介させていただいた方なのですが、高齢になった本人とひきこもりの息子で住んでいたそうです。収入は本人の年金のみで、年金額も決して高額ではありませんでした。息子は高校卒業後一度就職するも、職場で上手くいかず、ひきこもりへ。たまに買い物に行くぐらいで、家族以外の人と交流することはほとんどなかったようです。しかしそんな生活もいつまでも続くわけにはいかず、ある日、本人が倒れ、病院に救急搬送されました。病院から本人と息子の生活が心配であると、私達包括トータスに相談が入りました。本人に対しての支援は、もともと地域包括支援センターの業務の一つでもあり、介護保険の申請、退院後の生活をどうするか検討を行っておりました。しかし、前述したとおり、本人の介護保険制度利用ですべてがうまくいくケースではありません。年金でギリギリの生活をしていた二人にとっての入院費は高額で、自宅に残る息子の食費すら捻出するのは困難でした。そのため中核地域生活支援センターのいちはら福祉ネットと連携をとり、本人の支援主体は包括トータス、息子の支援主体はいちはら福祉ネットで行いながら、お互い情報を共有し、二人の生活を立て直すべく、社会福祉協議会から一時的に資金を借りたり、息子が病院まで移動するための自転車を調達したりして、生活の立て直しを図りました。このケースは残念なことに、本人は病気からの快復はできませんでしたが、息子は市内の事業所の協力を得て就労先を見つけ、自分で稼いだお金で生活を始めております。
このケースのように、いくら介護保険制度があっても、生活困窮者の貸付制度を設けてくれても、若者の就労支援サービスがあっても、それぞれが情報を共有し、同じ目標に向かって支援していかなければ、問題は一向に解決していきません。
その為に「地域共生社会」では「住民に身近な圏域で、分野を超えた課題に総合的に相談に応じる体制づくり」を掲げ、市原市では本年度から市役所内に「福祉総合相談センター」が立ち上がりました。そして来年からは、市内の地域包括支援センターが「身近な圏域」での「分野を超えた課題に総合的に相談に応じる」窓口として始動する予定となっています。
しかし、それらの体制が整えば、複合的な課題を抱えた人たちに支援がいきわたるでしょうか?
問題を抱えた人が、自ら「SOS」を出すことができるなら、支援体制はそれらの人を見つけ出し、一緒に課題解決に向けて動くことができます。しかし、問題を抱えた人達は好奇の眼差しで晒されるのを避けるため周囲の人と関わるのを拒否して、一層孤立してしまい、「相談できる」ことすら知らないでいることも多々あります。
前述したとおり、わが国ではかつて地域における支え合いの機能が存在していました。その時代であれば、地域の人が孤立しそうな人たちに声をかけ、支えあうよう動くことができたでしょうが、支え合いの基盤が弱まっている現代では、孤立しそうな人たちを見つけることが難しい状態であり、ましてやどう対応してよいのか分からず、「他人事」として見て見ぬふりとなってしまうこともありえます。
そのために、住民の交流拠点や機会づくりを行うことにより、「他人事」が「わが事」になるような環境整備を進めます。そして「地域共生社会」を再構築することで問題を抱えた人が様々な困難に直面した場合でも、誰もが役割を持ち、お互い配慮し、存在を認め合い、そして時に支え合うことです。そうすることが孤立せずにその人らしい生活を送ることができる社会を構築していくことが求められています。
加茂地区では今年度から地域の方々が、より身近なところで相談しやすいように地域の高齢者施設でも相談を受け付けてくれる予定です。南総地区でも民生委員さんや社会福祉協議会を中心に相談を受けております。そして対応が難しい場合や複雑な場合は地域包括支援センタートータスや中核支援センターいちはら福祉ネットなどが対応させていただきます。
「地域共生社会」とは、このような社会構造の変化や人々の暮らしの変化を踏まえ、制度・分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超え、つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域を共に作っていく社会を目指すものです。
その具体化に向けた改革の中で、地域包括支援センターは現在の「高齢者相談」だけではなく、「子どもから障がい者・高齢者相談」事業所として生まれ変わる予定であり、今年度はその準備期間となります。とはいっても、先ほどのケースのように、今までも高齢者の相談ばかりを対応していたわけではなく、そこに一緒に住んでいる子どもや若い人の相談も受け、専門機関と一緒になって支援をしてまいりましたので、驚くほどの体制変化ではありません。ですが、今より間口が広くなりますので職員としては、「福祉総合相談センター(仮称)」の開設に向けて、今年一年間、いろいろな研修に参加し、すべての相談に対応できるようスキルアップを図る年となります。ご相談事がありましたらなんでも構いませんので、市原市地域包括支援センタートータスまでご連絡ください。
※厚生労働省「地域共生社会」の実現に向けてより一部抜粋
地域包括支援センタートータス
センター長 近藤 まゆみ
0436(50)6262